博多区人権講座 ひきこもりと人権~経験者の視点から~ NEW

参加講座:博多区人権講座 ひきこもりと人権~経験者の視点から~

講師:Niente代表 山川豊揚さん

日時:2026年6月9日(火)14:00~15:30

主催:福岡市立博多市民センター

共催:福岡市博多区役所

会場:福岡市立博多市民センター

キーワード:人権、ひきこもり、家族、地域

レポート筆者:福岡市役所/市民局/生涯学習課/主任社会教育主事 永田

 

 博多区人権講座「ひきこもりと人権~経験者の視点から~」が開催されました。講師は、ひきこもりを経験し、現在はひきこもり当事者や家族の支援活動に取り組むNiente代表の山川豊揚さんです。

 

山川豊揚さん(Niente代表)

(ここでは「ひきこもり当事者」という言葉を使いましたが、Nienteでは「訳があって外に出られない人」と表現しています)

 山川さんは自身の体験を振り返りながら、「今日一番伝えたいこと」として最初に「家族の安心が本人の安心につながることがある。その家族を支える地域の関わりにも意味がある」と語りました。

 

家族の安心が本人の安心につながる

 講演では、ひきこもり状態にある人の背景には、怠けや甘えではなく、傷つきやすさや恐怖から自分を守ろうとする苦しさがあることが語られました。

 また、本人だけでなく家族も追い詰められており、何とかしたいという思いが、かえってすれ違いや悪循環につながることもあると話しました。例えば、ゲームに没頭している人の中には、ゲームをしていないと死にたい気持ちが抑えられない人もいます。しかし、その苦しさが見えないまま、家族は何とかしてゲームをやめさせようとしてしまうことがあります。あるいは、本人が望んでいないことをよかれと思ってやってあげて、本人の怒りを買ったり、かえって溝が深まったりすることも。

 山川さんは、自身がひきこもり状態にあった時は、奥様が働いてくれているのだから「楽しくしちゃいけない」「せめて苦しんでなきゃいけない」と考えていました。それが、奥様が元気になっていくと、自分も楽しんでいいんだと思えるようになったと言います。奥様も「この人はひきこもりでも楽しく暮らしていい」という「権利」をしっかり守ってくださったそうです。

 苦しかった時期、奥様は、ご両親や職場の人など身近な人に支えられ、少しずつ安心や元気を取り戻していきました。奥様を支えてくれる人がいたことで家庭の空気が変わり、それが結果として、ひきこもり状態にあった山川さんの安心につながったのだと言います。この経験から、山川さんは、本人に直接関わることだけが唯一の支援方法なのではなく、家族を孤立させず、家族を支えることも、巡り巡って本人を支えることになるのだと考えるようになったと言います。

 

地域のあたたかさが人生を変えることがある

 山川さんは、自身が回復していく過程を振り返りながら、「私を変えたのは地域の人の温かさだった」と語ります。園芸ボランティアの活動を通して、「助かるよ」「ありがとう」という飾らない言葉をかけてもらった経験が、大きな支えになったそうです。

 専門的な支援の場では、ひきこもり状態にある人は、今の暮らしを変えられるのではないか、何かをするように求められるのではないかと、怖さを感じる人もいると言います。もちろん必要な支援ではありますが、本人の準備が整っていない場合には、不安や圧力を感じることもあります。

 あるいは、「ありがとう」という言葉一つでも、ひきこもり状態の人にとっては、「外に出た」「支援につながった」「家族や支援者が望む行動をした」など、次の段階へ進むことを期待した、条件付きの感謝に感じられることがあると言います。

 一方で、地域の人の何気ない気づかいやあたたかいまなざしには、本人をどこかに導こうとする目的がありません。地域の人からの感謝の言葉には、自分を変えたり、次の行動を促したりする意図は感じられません。

 「病状や病名、支援の対象として自分が見られるのではなく、一人の人として見てくれた」経験から、山川さんは「地域との関わりは、家族と家の空気を変えてくれた。家族が安心すると、家の中で小言や否定が減った。すると、私にとって家の中が居場所になり、気力が回復していった」と表現しました。

 家族だけでは解決が難しい問題だからこそ、地域の人の支えが大きな意味を持ったというのです。

 

わたしにもできるかもしれないこと

 山川さんを救ってくれた地域の人は「おかしな人扱いしなかった人たち」で、「決めつけない、急がせない、噂にしない、それだけでも支えになることがあります」、「地域との関わりが誰かの生き直しを支えることがあるのです」と教えてくれました。

 山川さんによると、いま日本には146万人を超えるひきこもり状態の人がいるとのことです。

 この社会課題について、正直に言って、自分に何か特別なことができるとは思っていませんでした。しかし山川さんの話を聞いて、「決めつけない」「急がせない」「噂にしない」という関わり方そのものが、いわばごく自然にだれかと「普通」に接することが、その人を支える力になりうることを知りました。何気ないつながりや、心からの「ありがとう」が、相手や、相手の家族の人生を支えることもある。だったら自分にもできることがありそうだ―――。そう思わせていただいた講座でした。