社会教育士に会いに 第1回 西田明日香さん NEW

 社会教育士とは、社会教育主事講習の修了者や、大学・短期大学で社会教育主事養成課程を修了した人に与えられる「称号」です。令和2年に制度化されて以来、社会教育士は増え続けていて、令和6年度末時点の文科省発表では、全国に9,693人の社会教育士が誕生しています。
 福岡市でもたくさんの社会教育士がさまざまなフィールドで活躍しています。どのような人がどのような場所で何を思いながら活動しているのか、実際に会いに行ってきました。
 

第一回 西田明日香さん

西田明日香さん

 能古公民館で、2026年2月から3月にかけて地域の皆さんを対象とした6回シリーズの対話ワークショップが開催されました。公民館だよりに掲載された告知タイトルは「思い出を語る~みんなの団らんの場・時間~」。講師(ファシリテーター)には、地域コーディネーターの肩書きで社会教育士の西田明日香さんの名前を見つけました。
 能古島で暮らす人たちが地元を「語る」ことにフォーカスされたワークショップを、社会教育士の西田さんがどのように進めていくのか、島に渡り体験してきました。
 

語らないと、残らない(主催者の公民館長の思い)

 この講座は、公民館の主催事業として企画されたものです。田中郁子・能古公民館長は「昔のことを語り継いで残していかないと、この先つながりが途絶えてしまうかもしれない」と考え、語り合う場を立ち上げたかったといいます。人口減少にコロナ禍の影響も残り、人と人が集まる機会が減ってきています。公民館が担う「人が集う」役割を果たしたい、島のことを語り継いでいきたいという思いで、旧知の山口覚さん(津屋崎ブランチ代表)に相談し、西田明日香さんに繋がりました。

場をひらく人のしごと

 福津市出身の西田さんが通った小学校は、能古島の「海っ子スクール」と同じように広域から児童を集める小規模校だったということです。能古島と自分のふるさとは重なって見えると話しました。
 西田さんは、参加者が来る前にホワイトボードに前の回の「ミニ振り返り」と「対話の心得」を書き出します。
 

参加者が集まる前にひと仕事

対話の心得
・“私たち”と思う
・否定も断定もしない
・人の話に耳を澄ます(沈黙もOK!)
・グループのみんながお話できるように
・心の変化・変容を楽しむ

 小中学生から大人まで、参加者が集まりだします。やっぱり人集めには苦労があったようで、館長と主事がお一人おひとりに声をかけて集めたようでした。来てみたら楽しい時間を過ごせるのですが、来てもらうのが大変なんですよね。

 西田さんはまず「トークフォークダンス」で参加者の気持ちをほぐします。それから、これまでの実施回の振り返り―――

参加者に話しかける西田さん(写真を一部加工しています)

 これまでは、町別に話をしてもらったり、現役保護者世代の話を聞いてみたりしてきましたよ。高齢の参加者からは昔の暮らしの大変さや助け合いの文化についての話がありました。白鬚神社のこと、昔の運動会の仮装行列のこと、フェリーが通るようになった時のこと、道路が舗装された時のこと、電灯が点いたこと、おくんちのこと、学校帰りの畑仕事のこと。たくさんの出来事、風景、エピソードが語られました。40代、50代の参加者からは、現在の子育てや地域との関わり方などの話も。世代が違うと視点が変わり、語りが重なっていきます。

 そしてこの日語るテーマを投げかけます。「10年後の能古島、どんなふうだったらうれしい?」

 西田さんは、グループでの話し合いをにこにこと眺めたり、テーブルの上の模造紙へのメモが進んでいないなあと見ると相槌を打ちながらそっと近づいてきて(こんなふうにするんだよと)メモしてみたり。発言を急かすことも、整理することもせず、とにかく、「自分の考えを発言しても大丈夫なんだ」という場の空気を丁寧に整えている。そんな印象を受けました。

 語られた言葉は、評価されることもなく、結論にまとめられることもありません。そのまま共有され、だれかが書いたメモとして紙に残り、次の語りにつながっていきます。沈黙もまた、自然に受け入れられていました。この場は参加者にとって心地よいものだったろうと思います。

西田さんは、こっちのグループ、そっちのグループと順番に回りながら、参加者の話を引き出していきます(写真を一部加工しています)

対話からはじまるつながり

 最後に、西田さんはこう話しました。
「これからも、能古島の皆さんが対話を通して考えることを続けてくださったらうれしいです。場のセッティングに少しの心くばりさえできれば、参加する人は、なんのスキルもいらないし、なにかやらなきゃと焦る必要もありません。気軽な対話を通じて人と人が知り合う場をつくること、それがスタート地点であってほしいです。一人じゃできないことでも、テーブルに出してみたらなにか動き出すかもしれませんよ。対話の場に『一緒に行こうよ』と大事な人を誘ってみてください。能古島の皆さんに、対話する文化が根付いていったらいいな、人と人がかかわりあう土壌が豊かになったらいいなと願っています。」

 確かに、今日参加した人はこの場に小さくとも確かな可能性を見出したのではないかと思います。

 気軽な対話って、ひょっとしたら昔は井戸端や八百屋さんや通りに面した縁側とかそこかしこで自然と発生していたものなのかもしれません。そういう機会が少なくなっている現代だからこそ、言葉を交わすことで触れ合って混ざり合うことの重要性がますます高まっていると言えるのかも。このたび西田さんが丁寧に整えた能古対話の場は、「言葉による良質なコミュニケーション(沈黙を含む)が本質的にもつ可能性をぐぐぐと引き出す営みを見た」―――そういう体験でした。
 

レポート:福岡市役所/市民局/生涯学習課/主任社会教育主事 永田