社会教育士に会いに 第3回 山本陽子さん NEW

 社会教育士とは、社会教育主事講習の修了者や、大学・短期大学で社会教育主事養成課程を修了した人に与えられる「称号」です。令和2年に制度化されて以来、社会教育士は増え続けていて、令和6年度末時点の文科省発表では、全国に9,693人の社会教育士が誕生しています。
 福岡市でもたくさんの社会教育士がさまざまなフィールドで活躍しています。どのような人がどのような場所で何を思いながら活動しているのか、実際に会いに行ってきました。
 

第3回 山本陽子さん

 山本さんは、情報誌やWEBメディアを中心に取材・インタビュー記事を執筆するライターです。

山本陽子さん
出産を機に公民館やPTA活動に関わり、「社会教育の可能性を感じた」(ご本人談)ことから令和7年に社会教育主事講習を受講して社会教育士となりました

 プライベートでは、長年、室見で「こども作文と詩の会」「大人の読書会」を主宰するなど、書くことと読むことの喜びを地域の皆さんに伝えています。

 このたび、山本さんが草ヶ江公民館で小学生向けに90分講座を開くと聞いて、畏れ多くもプロのライターを取材してまいりました。

 

2026年7月29日「めざせ!小学生小説家~楽しく書くコツを見つけて、自分だけの物語を書こう~」@草ヶ江公民館

 集まった小説家のたまごたちは、高学年が13人、低学年が6人の合計19人!

開始前。みんなちょっと緊張してる…かな(写真を一部加工しています)

 まずはみんなの自己紹介です。でも、自己紹介って少し照れくさかったりしますよね。今日のみんなもちょっともじもじ…。

 山本さんは動じずに、やさしく語り掛けます。

 「言いたくない? わたしはいつも、相手のお話をたくさん聞いて、それを文章にしています。みんなの話も聞いてみたいな。なになら言えそう? 名前? 好きなこと? 好きなアイス?」

 みんなは好きなアイスに反応しました。それなら言えそう! って顔をしています。

 「抹茶!」
 「チョコ…」
 「クッキー&クリーム」
 「特にない」
 「ゲームが好き」
 「マックフルーリー」
 「言えない」
 「バニラ」
 「ソーダ」
 「あずきバー」「それ固いやつだ!」
 「ブラックモンブラン」
 「ジャイアントコーン」
 いろんな答えが出ましたよ。

 少しほっとした空気になったのを見計らい、山本さんが言葉を続けます。
 
 「みんな、今日は、できるだけおもしろがって書いてみようね」

 

小説家への第一歩

 ちょっと人数が多いので、高学年と低学年に分かれての進行です。

 低学年は、山本さんと一緒に室見の教室を主宰する小松千江子さんが教えます。こちらではまず絵本の朗読から入りました。
 

小松さん(写真中央)もプロのライターです(写真を一部加工しています)

 高学年のテーブルでは、山本さんが小説のプロットを整えるペーパーを配りました。

これがあれば大人の皆さんも小説家になれるかも…!?

山本さん「まずは主人公を決めてみよう。人でも動物でもモノでも宇宙人でもなんでもいいよ。そして主人公に名前を付けてあげよう。そこまでできるかな。」

子ども「主人公2人でもいい?」

山本さん「2人でもいいよ。でも1人の方が書きやすいからおすすめだよ。」

山本さん「昨日わたしが考えたお話はこんなの。白いブラウスが主人公。ブラウスにサクランボが付いているので名前はさくらんぼちゃん。みつきちゃんの服なんだけど、最近なかなかみつきちゃんが着てくれない。なぜならみつきちゃんの体が大きくなっちゃったから。お母さんがリサイクルしてくれてサイズアップ! また着られるようになったよ。」

山本さん「配った紙はね、書きにくいところがあったら飛ばしてもいいよ。『そんな主人公になにが起きる?』、ここがとっても大事! ここはしっかり考えてみてね。」

山本さん「困った人がいたら手を挙げてね。もう小説を書けそうだなって思った人も教えて。」


 

さあやってみよう!(写真を一部加工しています)

子どもたちの物語を引き出す社会教育士

 告白します。わたしは、90分で小説を書くことなんてできるんだろうか…って思っていました。

 ところが。山本さんが披露したストーリーに触発されたように、子どもたちはどんどんプロットシートを埋めていきます。ちょっと手が止まったら、山本さんが近寄ってきて、少し言葉を交わすとまた手が動き始めます。
 

「この主人公はこの時どう考えるだろうね」。(写真を一部加工しています)

 シートを書き進めて「もう小説を書けそうだ」と思った子は、原稿用紙を受け取り、真剣な表情で升目に鉛筆を走らせます。

立ち上がって書き出す子もいました。Vamos!(写真を一部加工しています)
作品の一部をチラ見せ

 この日はさすがに少し時間が足りず、発表会までには至りませんでしたが、でもほとんどの子が初めての小説を書きあげ、持ち帰りました。驚くことに、低学年の子もほとんど完成させたのですよ! 「公民館に置いてもいいよ」って子の作品は、館長がしっかりコピーを取っていました。

 大人の特権でそのコピーをいち早く見せてもらいますと、

・鉄棒が逃げ出した話(追いかけていくとおうちに帰り着いた)
・冷蔵庫のピーマンが「寒い」と話しかけてくる
・ペットボトルの王様の話
・性格が腐ってるトマトの話
・ぶにょぶにょカステラが焼き直してもらってピカピカになったよ

 どうですか、これ!? どこの長新太ぞろいだったのでしょうか。あ、でも、将来の自分の夢が保育士だからと、保育士を主人公にした純文学もありました。どれもおもしろく、本当に、初めて、しかも90分で書いたものとは思えませんでした。


 参加した子どもたちは、楽しかったし、自信になっただろうと思います。一人の子なんて、「おれほんとに小説家になろっかなー」なんて言いながら帰っていきましたよ。

 また、公民館に初めて来たという子もいました。「ここはいつでも来ていいんですね」と感慨深そうに館長に言って帰っていきました(よかったですね、松田館長)。



 

 山本さんの今回の実践には、プロの聴く力・書く力がベースにあるのは間違いありません。しかし、それ以上に印象に残ったのは、「子どもたちは書ける」という確信、「子どもたちを信じて待つ」という姿勢でした。

 物語は確かに子どもたちの中にあった(ある)のだと思います。その上で、山本さんは、それを引っ張り出してあげるのではなく、子どもたちが自力でそれを引き出せるよう、導いてあげたのだと感じました。

 「答えを与える」のではなく「学びや成長が起こる環境を整える」。そんな社会教育の実践を、目の前で見せていただきました。




 

レポート:福岡市役所/市民局/生涯学習課/主任社会教育主事 永田